"翁、本性すなほにて、飾ることをいとひて、いづこへもみぐるしけの服のまゝにて出ぬ。かくてはみぐるし、かさねてはうるはしき衣きて来給へと、あそびがいふをきゝて、後の日、又かしこに至りぬ。出あへるものゝうちたふれて笑ふ事かぎりなし。翁、さるがくの女の装束、ことにきら/\しきをうちきて、まめだちをりて、みづからはをかしとおもはぬけにてぞ有ける。ある時、日ころを過して家にかへりきて、とのかたに立ゐて、いかに春英のやどりはこれかと、たかやかにいふを、妻おどろきて戸ひきあけていれつ、なにとていまのほど、きは/\しくのたまへる、といへば、日をへて帰りきたれば、もし此家の、あだし人の物にやなりぬらん、さては案内せではあしからんと思ひて、さはいひたるなりというべき、すべて翁のしはざ、顧長康の風ありと、みな人はいひけり。"
浮世絵文献資料館『増補浮世絵類考』(ケンブリッジ本)(斎藤月岑編・天保十五年(1844)序)
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