2011年6月30日木曜日

都會で流行の家庭美容美顔術 松井千枝子 著 序

本文 - 都会で流行の家庭美容美顔術|近代デジタルライブラリー

序に代へて

  新らしい時代には、新らしい美容法がなければなりません。いつまでも、いつまでも舊い習慣にとらはれて居りますことは、徒(いたづら)に時代の潮流に逆(そむ)いて棹(さをさ)す舟人の愚さでございませう。
  新らしい時代を作つてゆく、一つの大きな力と致しましての、映畫の影響は拒(いな)むことが、出来なくなつて参りました今日、私共のつたない實際の經驗を申し上げますのも、あながちに無駄なことばかりでもないやうに存じます。
  たとへば、春の朗(ほがらか)な陽射のもと、伸びやう/\とする若草の緑萌ゆる野邊!その逍遥(そぞろあるき)に私共の生の力は、ともどもにはちきれやうと溢れ出て参ります。
  美も、かくほがらかに、かく自然に、溢れて来なければなりません。
  お化粧(つくり)によつて、唯美しく見せますことは、ぢきに飽かれてしまひ易いものでございますから……………。私共の仕事として、お化粧をする裏には、かうした方面への種々な、苦心や、研究がなければならないことでございます。
  さうしたことで、諸嬢(みなさま)に直接、お役に立てばと思つた事柄を順序もなく、プランもなく、唯、漫然と書きしたゝめて参りましたのが本書でございます。
  出来てしまつてから、種々と意に満たぬ點も出来て参りましたが、それは他日を待つて訂正すると致しまして、とりあへず、拙き私の贈物を、諸嬢の前へ捧げさして戴くのでございます。
  御大典の秋                 松井千枝子

「近代デジタルライブラリー■平成23年6月の追加資料の紹介」より。「プランもなく」という表現が目を引いたのでテキストを起こした。
※文中「はちきれ」の強調は、実際には傍点による。
※昭和3年の出版。デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説によると松井千枝子は翌昭和4年4月に31歳で亡くなってしまったようだ。



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