2011年6月26日日曜日

「福島第一原子力発電所事故について -原子炉の立場から-」田中俊一 より抜粋

※平成23年6月10日 日本物理学会主催シンポジウム
PDF「福島第一原子力発電所事故について -原子炉の立場から-」田中俊一 より。
同氏の講演「福島における除染のあり方について」動画インデックスと重ならない部分を抜粋。

福島第一原発の諸元


炉心内、燃料プールの燃料集合体


時系列から探る初期対応

:日経・朝日、:官邸データ、:コメント(田中)

3月11日(金)
14:46 地震発生、運転中の1,2,3号機自動停止
16:36 ECCSによる注水不能、原災法に基づく緊急事態発生を国に通報(東電)
19:03 原子力災害対策本部設置、原子力緊急事態宣言発令(首相)
20:30 2号機の冷却装置停止
22:50 2号機の炉心露出、燃料溶融予測(NISA)  ⇒  水素発生認識?1号機でも?

3月12日(土)
1:20 1号機格納容器圧力の異常上昇通報(東電) ⇒ 水素発生の認識?
1:30 政府が東電に水蒸気放出を指示 ⇒ 水素の認識?
6:38 1号機中央制御室の線量、通常の1000倍(NISA)
                    D/W圧力(AM2:45-5:20に0.941MPaを記録) 破壊寸前!
                    格納容器は過大な圧力で機密性を失ったため内部の放射能と水素が
              原子炉建屋へ漏洩! しかし格納容器からの放射能漏洩認識?
6:50 炉規法に基づき、経産相から1,2号機の格納容器圧力を下げるよう東電に命令
9:11 NISAが1,2号機の格納容器内の蒸気を外部に放出することを東電に命令
                                                                      水素爆発の認識なし!
10:17 1号機格納容器のベント実施
15:36 1号機で水素爆発
20:32 1号機に海水注入開始

3月13日(日)
8:41 3号機格納容器ベント開始
                  RPV圧力約9気圧から72気圧へ急上昇(8:00)、水位急低下(-3000mm)
            D/Wの圧力上昇、その後RPV圧力大気圧まで低下。
                                                  ⇒ 13:12に海水注入するまで炉心冷却なし。
11:20 2号機格納容器ベント開始
13:12 3号機に海水注入開始

3月14日(月)
5:20  3号機ベント開始
11:00 3号機で水素爆発
16:34 2号機に海水注入、水位回復せず、燃料露出
            17:12に水位ダウンスケール、PRV圧力74気圧、15日18:43に大気圧。
                                         ⇒ 圧力バウンダリーが破壊(破壊の原因)

3月15日(火)
6:00 4号機で爆発(SFプール)、水位低下により水素発生、燃料破損
6:10 2号機で水素爆発、圧力抑制室損傷
                                         ⇒ 燃料溶融と大量の水素発生についての認識欠如

3月16日(水)
 8:30 3号機から白煙、SFプールの水位低下、燃料破損
               ⇒ 使用済燃料の発熱についての認識欠如、地震によるSFプールの損傷も
          確認せず。「SFプールの水位に注意」の助言が届かず。

冷却材喪失による炉心溶融のプロセス

① 炉心冷却が喪失すると崩壊熱により、RPV内の水が急速に蒸発、燃料が
  露出し、燃料被覆管(Zr合金)と水(水蒸気)との反応が始まる。
   Zr + 2H2O → ZrO2 + 2H2   Q:
  安全審査指針では、被覆管表面温度を1200℃以下(ECCS指針)
② 1200℃を越えると急速に反応が進み、被覆管は脆化し、同時に水素発生
  が急速に進み、2250℃で溶融。
   4-5時間でZr被覆管がほぼ100%溶融。
   その間の水素生成量は、約800kg
③ 更に、温度が上昇し、2800℃になるとUO2燃料(セラミック)が溶融し、燃料
  に閉じ込められている核分裂生成物(FP’s)が燃料の外に拡散放出される。
④ 溶融炉心は、炉内の構造物を更に溶融し、RPV下部に蓄積(炉心溶融)
⑤ 溶融炉心はRPVの制御棒駆動案内管等の貫通部分を溶かし、下部ヘッド
  に落下(BWR特有)
⑥ さらに、溶融炉心は下部ヘッドの壁を貫通して、格納容器に到達。
   (メルトスルー)
⑦ 格納容器の壁を溶融し、貫通。

事故の収束に向けた道筋  4月17日東電

現状① (1~3 号機)燃料ペレットの一部は損傷しているが、注水により冷却で
     きている
 リスク① 冷温化により格納容器内の水蒸気が凝縮、水素の濃度が高くなり、
      水素爆発する恐れ
現状② (1~3 号機)高温により格納容器に生じた隙間から放射性物質を含む
     微量の蒸気が漏洩している可能性大
現状③ (2 号機)漏水が多く、格納容器が損傷している可能性大
目標① (1・3 号機)安定的に冷却できている
 リスク④ 水を満たす過程でタービン建屋への流入水が増加
 リスク⑤ 放射線レベルの高い場所で、作業が長期化する恐れ
目標② (2 号機)格納容器が密閉できるまでは、滞留水の増加を抑制しつつ冷
     却する
 リスク② 損傷箇所の密閉作業が長期化する恐れ
現状⑨ 2 号機タービン建屋や立坑・トレンチに放射線レベルの高い水が流出かつ滞留
目標⑥ 放射線レベルが高い水を敷地外に流出しないよう、十分な保管場所を確
     保する
 リスク⑦ 水処理施設の設置遅延や稼動不良の可能性


収束の見通し

4月17日
ステップ1;放射線量が着実に減少傾向となっている(3ヶ月程度)
ステップ2:放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑制
されていること(3~6ヶ月)
5月17日
収束への道筋の見直し、「水棺方式」を延期、建屋等に滞留する汚
染水を処理して原子炉注水に再利用する「循環注水冷却」へ現状
6月8日
1号機、2号機、3号機はメルトスルー状態
  (溶融燃料が圧力容器下部から格納容器へ)


現時点での最大の課題は、毎時25トン(600トン/日)
程度排出される大量の高濃度汚染水の処理

今後の課題

「福島原発は、巨大な放射性廃棄物」




今後の課題(サイト内)

• 事故の沈静化・安定化(数ヶ月~3年)
• 作業環境の改善(数ヶ月~5年)
  放射能気体、汚染水、瓦礫等の処理
• 原子炉建屋修復・密封性修復(~1年)
• SF燃料、原子炉燃料取出し(5~10年)
• 通常の解体(10年) 
• 廃棄物、破損燃料の保管(数10年)

今後の課題(サイト外)

• 放射線・放射能マップ(1~2ヶ月)
• 評価と対応策(1ヶ月~6ヶ月)
• 環境放射能の除染(数ヶ月~数年)
• 住民の移住、土地問題等(10年以上)
• 風評被害対策(10年)
• 放射線モニタリング(10年以上)
  大気、土壌、海、米・野菜等、魚類等
• 損害賠償(10年以上)
• 健康調査・管理(最低10年)

科学者への期待とモラル

• 原発の収束、その後対策のための課題は山積しており、
具体的にかつ即効性のある成果が求められている。

• 現実への責任を持てないプレス発表は、結果として住
民を傷つけることになることに留意すべき。
• 研究者の興味だけのフィールド試験は、住民を不安に
陥れ、科学者への不信を募らせる。
• 様々な除染技術や廃棄物処理技術が提案されている
が、除染すべき対象は広大で多様、また廃棄物は多種
多様で物量は膨大であることを認識すべき。
  (応用可能性に配慮していただきたい)

以上

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